「スポーツ」とアマチュア精神

社会

はじめに

今回は、「今は昔」ではなく最近の話。

Garmin[1]スイスに本社を置くGPS関連機器のメーカー。GaryとMinの二人が創業したのでGarmin。のスマートウォッチを使い始めました。ただこの時計、当初の目的であるビジネスより健康管理やスポーツ向きのようで、「仕事はいいから、散歩かジョギングでもするか」と、早速方針を強いられています。

Garmin Vivomove Style
(スーツにも合います)

そこで、今回はその「スポーツ」について書かせて頂くことにしました。これもビジネスパーソンには必須の教養課題かと。しばしのお付き合いをお願い申し上げます。

「スポーツ」は見せ物?

白洲次郎[2]1902 – 1985。ビジネスマンであり吉田首相のブレイン。ケンブリッジ大学で学んでいます。がいささか古い新聞のコラムにこんなことを書いています。

大体プロのやるスポーツは外に適当な言葉がないから「スポーツ」というので、実はスポーツでも何でもなく単なる見世物に過ぎないのだ[3]読売新聞 1956年6月11日付。以降、白洲次郎の言葉はすべてここからの引用です。

この人は常に辛辣なコメントをする人ですが、時に真実を穿ったことも言うので面白い。プロが「スポーツ」をすることなどあり得ないそうで、「それなら、誰がスポーツをするのか?」というと、アマチュアだそうです。アマチュアがやるからこそ「スポーツ」であり、その場では「勝負は第二で一般観客の存在などは意識する必要がない」とのこと。

「アマチュアだって勝負は大切だ!」と言いたくもなりますが、白洲も学生スポーツの雄です。彼が言う「第二」とは、「モチベーションの糧には違いないが」といったニュアンスも含んでの発言でしょう。

上司から「お前はプロだろ、素人じゃないんだ!」などと苦言を頂戴した方もおられると思いますが、この場合は「プロ」の方が「アマ」より上だと思うことが前提になっています。しかし、白洲の暮らした古き良き時代の英国では、ちょっと違ったアマチュア精神が尊ばれていたようです。

それは、勝負はさて置き、プレイを楽しみつつフェアに闘うのがアマチュアであるということ。念頭には、常にフェアであろうとする姿勢があり、観客の多寡は大した問題ではありません。一方、勝ち負けにこだわってゲームを面白くし、観客を増やそうとするのがプロ。白洲に言わせると「その競技に関する限りアマは紳士であってプロは芸人である」ということになります。

これも舌足らずな言い方ですが、アマチュアの第一義は人格の形成、プロフェッショナルのそれは、観客を楽しませることであるという意味であろうと思います。

ビジネスも似たようなところがあります。販売店を見学に来た米国人に「優秀なセールスマンは店長になる」と説明したところ、「なぜ、セールスのエクスパートにマネジメントができると思うのか?」とたずねられたことがあります。確かに、得意分野(セールス)で勝てる人でも(それを「プロ」だとほめる人もいますが)、組織をまとめるリーダー(店長)になれるとは限りません。

反対にセールスが一番ではなくても、店長になると上手くスタッフを束ねていく人もいます。今思うと、この人は英国流のアマチュア精神を持った「スポーツマン」であったのかもしれません。

英語の「スポーツ」

では、白洲の言う英国での英語の「sport(s)」とはどんな意味かというと、これは中々難しい。一例をあげれば、英文学者の福原麟太郎[4]1894 – 1981。英文学者、随筆家。ロンドン大学、ケンブリッジ大学で学んでいます。は、逃走中の囚人が道を教えたくれた人に ’That’s sporting of you’ と一礼するケースを例に挙げ、「sporting」とは、偏りのないフェアな判断をすることと理解していたようです。

確かに英語の辞書を紐解いてみるとそうした意味が出てきますし、会話の中で「sport」が ”He is a sport”として登場すれば、気のいいヤツ、とか、フェアな判断をする男といった意味になります。

ここで思い出すのが、スコット・フィッツジェラルドの小説「グレート・ギャツビー」[5]F. S.フィッツジェラルドは米国の作家。『グレート・ギャッツビー』は1925年の作です。。オクスフォード大学で学んだと称するギャツビーは、大切な友人のニックを ’Old Sport’ と呼んでいました。大学で使われた呼びかけだそうですが、この「オールド・スポート」の「スポート」も敬愛を込めた言葉です。敢えて訳すなら「古き良友」、昔ながらにフェアな考え方をするオトコといった感じでしょうか。村上春樹氏も訳語を「考えに考えた」[6]村上春樹翻訳ライブラリー 『グレート・ギャツビー』あとがき。そうですが、結局は「オールド・スポート」と英語のままにして、言葉のリズムの方を活かしたようです。

筆者所蔵の古いペンギン・ブックス版
(私はこの装丁が気に入っています)

どうやら日本語の「スポーツ」からは、英語の「sport」にあった、「フェア」、すなわち「偏りのない公平さ」、さらにはそれに連なるアマチュア精神といった意味合いが抜け落ちてしまい、運動をする方の「スポーツ」の意味ばかりが残ってしまったようです。

おわりに

きょうび、街にはオリンピック誘致の暗い話があふれています。しかし、私には「オリンピックはアマチュアスポーツの祭典」と言われていた時代の記憶がまだ消えていないようです[7]オリンピック憲章からアマチュア規定が削除されたのは1974年のことです。。「誘致か否か」という勝負にこだわっての贈賄・収賄の話ばかり聴かされると、「スポーツ」とアマチュア精神について考え直す時が来ているのかな、と感じること頻りです。

そんなことを考えつつ、スマートウォッチ画面の歩数も気にしながら、自分のビジネスマン人生をつらつらと振り返る今年の秋です。

では、ご機嫌麗しく。




References

References
1 スイスに本社を置くGPS関連機器のメーカー。GaryとMinの二人が創業したのでGarmin。
2 1902 – 1985。ビジネスマンであり吉田首相のブレイン。ケンブリッジ大学で学んでいます。
3 読売新聞 1956年6月11日付。以降、白洲次郎の言葉はすべてここからの引用です。
4 1894 – 1981。英文学者、随筆家。ロンドン大学、ケンブリッジ大学で学んでいます。
5 F. S.フィッツジェラルドは米国の作家。『グレート・ギャッツビー』は1925年の作です。
6 村上春樹翻訳ライブラリー 『グレート・ギャツビー』あとがき。
7 オリンピック憲章からアマチュア規定が削除されたのは1974年のことです。

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